車売却では普段の会話では出てこないような言葉が多く出てきます。
例えば「査定士」「出張査定」「記録簿」「リサイクル券」「委任状」など。
車売却の中でも漢字が多く、でも大事な「契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)」という言葉があります。
そこで今回は車売却時の契約不適合責任について解説。
最後まで読めば、あなたは安心して車を売却することができるでしょう。
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)とは?
契約不適合責任は、瑕疵担保責任に変わり2020年4月にできた新しい民法です。(民法566条、民法570条)
契約不適合責任に変わったことにより、「瑕疵」ではなく「契約内容に適合しないもの」と変わりました。
また、瑕疵担保責任では、買主からの要求が「契約解除」「損害賠償」だけだったのに対して、契約不適合責任では「契約解除」「損害賠償」「追完請求」「代金減額請求」と買主の権利がより強くなりました。
ただし、契約不適合責任は出来たばかりということもあり、事例もまだまだありません。
今回は、「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」について解説していきます。
瑕疵担保責任とは?
少し長いので核となる部分のみ抜粋します。
売買契約に基づいて買い主へ引き渡された目的物に、引渡しを受けたときには分からなかった瑕疵(欠陥やきず)があった場合、売り主が買い主に対して負う責任をいう。たとえば中古車を購入したところ、購入時には容易にみつけることができない不具合がエンジンにあり、買い主(購入者)が修理しなければならなかった場合には、買い主は売り主に対して修理に要した費用を損害賠償として請求することができる。
※出典:コトバンクの「瑕疵担保責任」より
車売買における瑕疵担保責任
- 買主(車買取業者)が車買取後に、あなた(売主)から申告されていない不具合が生じていると判断した場合、修理費や整備代などの請求(損害賠償請求)をすることができる。
- 買主(車買取業者)が修理しても使用できない場合は、契約そのものの解除ができる。
つまり車売買における瑕疵担保責任とは、「あなたが車売却をするときに知らなかった不具合が、車売却後に車買取業者によって見つかった場合、修理費用や減額請求、損害賠償されるかもしれない責任」といえるのです。
また、今回の民法改正により、「瑕疵」ではなく「契約内容に適合しないもの」と変わりました。
つまり、今後はさらに減額や損害賠償権限が強くなります。
瑕疵担保責任の有効期間は?
民法566条及び570条に明記されております。
本条が準用する566条3項によって、瑕疵担保責任が追及できる期間は、買主が瑕疵を知ったときから1年間に制限されている。
つまり売買契約してから1年間の間は有効ということです。
実際の買取業者の売買契約書をチェック
実際に買取業者の売買契約書をチェックしてみましょう。
下記は大手買取業者のカーセブンのもの。
第9条には下記のように「売主は車両に対して品質や瑕疵の有無を誠実に申告すること」が明記されています。
そして、第 12 条 買主による契約の解除の3項に「記載事項と契約車両に相違が生じた場合、買主は本契約を解除でき、売主は、買主から損害賠償されても、一切の異議申し立てをできないものとする。」と書かれています。
少し漢字が多く難しい感じがするので、簡潔にまとめると
- 「正しく申告しなさい。もし後から、何か欠陥や故障が見つかった時は、契約の解除や損害賠償をするよ!」
って書かれています。
ただし、相手は査定のプロで業者側も発見できなかったという過失があります。だから原則、後からの減額などは認めなくてもいいとされています。
瑕疵を理由にした契約の解除や減額は原則認めなくてもいい
独立行政法人の国民生活センターに下記事例があります。
【事例9】事故車と言われ、引き渡し後に減額された
新車を買うために今の車の査定を申し込んだ。3 日前、自宅に来てもらい査定してもらったら 22 万円で買い取ると言われ、その場で契約し車を引き渡したが、2 日後業者から「隣の県のオークション会場に運び点検したら、事故車と判明したので半額での買い取りになる」と言われた。3 年前に 6 年落ちで購入したが、そのときには事故車だとの話はなく自分も事故を起こしたことはないと伝えたが、業者は、「納得がいかなければキャンセルするが、運送費 3 万円を解約料として払え、払わないと車は返さない」と言う。(2011 年 11 月受付 30 歳代 男性 給与生活者 静岡県)
まさに後から減額請求をされた事例です。
それに対して国民生活センターでは下記のアドバイスをしています。
契約後の車両の瑕疵を理由にした契約の解除や減額は、原則として認めなくてよい
査定して契約後、「よく調べたところ車には事故歴があることが判明したので、買い取り額を減額する」「修復歴があることがわかったので解約する」などと、事業者から、減額や解約を求められることがある。車両に「隠れた瑕疵」があった場合、事業者は消費者に対し、瑕疵担保責任に基づいて損害賠償および契約解除を求めることができる。しかし、事業者は査定のプロであり、通常の注意を払えば修復歴などは発見することができるものであり、事業者側に過失があったということができる。このように過失があった場合には、瑕疵担保責任を求めることはできない。
また、「契約車両に重大な瑕疵の存在が判明した場合には、契約を解除することができる」といった、事業者の過失の有無に関わらず解除できる条文が契約書にあっても、この条文は消費者契約法第10 条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)によって無効とする主張が可能である。※1.車両の瑕疵を理由にして、契約後に買い取り価格を減額された場合には、この考え方をもとに交渉すること。
※1.この条文を使って、中古車売却時の契約条項を無効とした判決に、平成 18 年 3 月 10 日判決右京簡易裁判所平成 17 年(ハ)第 212 号(確定)がある。
ここまでの話をまとめると下記の通りです。
車売却時の瑕疵担保責任まとめ
- 車両に「隠れた瑕疵」があった場合、事業者は消費者に対し、瑕疵担保責任に基づいて損害賠償および契約解除を求めることができる。
- 修復歴などが発見できないのは事業者の過失でもあるため、瑕疵担保責任は要求できない
- 消費者契約法第10 条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)によって無効とする主張が可能
つまり、原則、瑕疵担保責任を認めなくても良いということになります。
ただし、もちろん嘘をつくことでトラブルの原因になりかねませんので、分かっている故障などは最初に申告するようにしましょう。
瑕疵担保責任のトラブルを減らす4つの対策
売主からすると、瑕疵担保責任を認めなくても良いとしても、問われるのは気持ちいいものではありません。
何とかトラブルを避けたいと思うはず。
そこで、瑕疵担保責任のトラブルを減らす4つの対策をお伝えします。
瑕疵担保責任のトラブルを減らす4つの対策
- 分かっている欠陥や修復歴・事故歴は正直に話す(嘘は絶対につかない)
- 自分でもある程度はチェックする
- 複数の査定士に見てもらう
- 契約締結前に確認する
①分かっている欠陥や修復歴・事故歴は正直に話す(嘘は絶対につかない)
まず当たり前ですが、民法で定められているぐらい、大きなモノを売るということは重い責任があるということです。
もし、修復歴などを隠して買取された場合は、基本は受け入れるしかありません。
なので、まず分かっている事故歴や修復歴、故障は必ず申告してください。
査定額が下がるため、嘘をついて隠したくなる気持ちはわかりますが、余計に損害賠償など面倒なことになり兼ねないためオススメできません。
②自分でもある程度はチェックする
車の状態を知るために、自分でもある程度チェックすることは大事。
車査定は一般的にJAAI(一般財団法人日本自動車査定協会)の査定基準をベースに行われます。
JAAIで定める査定基準
- 年式
- 走行距離
- キズやヘコミの有無
- 電子部品などの故障
- 内装の汚れ
- 事故歴・修復歴
特に査定士が見落としがちなのが、電子部品などの汚れと事故歴・修復歴。
電子部品などの故障は、普段から使っていたあなたの方が気付きやすいはず。
普段から使っていなかった場所を特にチェックするようにしましょう。
車査定時のチェックポイントについては下記記事で詳しく解説しています。
③複数の査定士にみてもらう
査定士は一人の人間です。どうしても見落とすことがあります。
特に一番見落としてはいけないのが「事故歴」「修復歴」。
これらがあると、中古車としての価値がガクッと下がってしまうため、後から減額請求される可能性が高いです。
複数の査定士にチェックしてもらうことで、気づける可能性が高くなります。
悪徳の買取業者も防げる
また、複数の査定依頼すことで悪徳の買取業者を防げる効果もあります。
ごく稀に本当は事故や修復歴が査定時に分かったけど、「修復歴なし」にしておき、買取額を高くみせて契約させる悪徳業者がいます。
売主としては、高く売りたいがために一番高い買取額を提示してくれた買取業者と契約してしまいます。
しかし、後から「修復歴があった」などと言い減額を要求(再査定)してくる買取業者がごく稀にいるのです。
さらには、キャンセルを申し出ると違約金を発生する(キャンセルペナルティー)と言ってくる買取業者もいるのです。
これは今でも行われており2022年12月20日の日刊自動車新聞にも下記が書かれていました。
中古車買い取り事業者などで組織する日本自動車購入協会(JPUC、井上貴之代表理事)が設置している「車売却消費者相談室」の相談件数が急増している。特に、JPUC非会員企業による買い取り行為についての相談が多い。消費者が買い取りをキャンセルした際の違約金については、買い取り業者の一部で法外とも思われる金額を請求する例もある。
※出典:一般社団法人 日本自動車会議所
このような行為を業界用語で「再査定」「キャンセルペナルティー」と言います。
このような悪徳な業者を防ぐ意味でも、複数の買取業者に査定依頼するのはとても大事。
あまりにも1社だけかけ離れた査定額であれば、他の買取業者から「後から減額するつもりだよ」など教えてもらえます。
なお、複数社の依頼は車一括査定が便利です。
車一括査定については下記記事で詳しく解説しています。
④契約締結前に確認する
売買契約を締結する前に買取業者に「後から減額はしない」ことを約束してもらいましょう。
ほとんどの買取業者は約束してくれます。
特に査定に自信がある買取業者は、即決してくれます。
言葉だけの約束ではなく、契約書などにも一筆書いてもらっておくとさらに安心です。
売買契約書のチェック項目については下記記事で詳しく解説しています。
まとめ
- 瑕疵担保責任とは、後から不具合や欠陥が見つかった場合に、買主に対して賠償する責任のこと
- 2020年4月から瑕疵担保責任は契約不適合責任となり、より買主の主張が強くなった
- 瑕疵担保責任のトラブルを減らす4つの対策はある
- 分かっている欠陥や修復歴・事故歴は正直に話す(嘘は絶対につかない)
- 自分でもある程度はチェックする
- 複数の査定士に見てもらう
- 契約締結前に確認する